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第六章
[通学再開]
長かった夏休みが終わり、新学期が始まった。 二十四週目、電気のクラスは「ケーブルの敷設と安全装置」 前と同じ、ダイアンが担当した。 実習室の壁には穴だらけの分厚いベニヤ板が取り付けられている。 新品のブレーカー(ヒューズの装置)と他の部品が渡され、それらを固定し、ケーブルで配線、アース棒も取付け、漏電検査をして通電をする。 電気工事の基礎学習であった。
クラスメイツは、トニー、マックス、ジェミニーと私の四人だけとなった。 彼等は遅刻や、早退をしながらも、出席だけはしていた。
授業中に突然、机のノー卜類をバッグに詰込む。 私は不思議そうに見ていると、バッグを担いで教室から出て行こうとする。 ダイアンは、「どこへ行くのか?」と尋ねた。 「家へ帰る」と悪気もなく答え、彼女は何も言わずに帰らせてしまう。
ジェミニーはその常習者だった。 いつも白板に違法な植物の絵を書いたりした。 どうも そっちの方に興味が有るらしい。 ある時、私は「それをやっても親は何も言わないのか?」と聞いた。 すると彼は、「親には関係ない」と答えた。 そうだ、彼は今、最も難しい年頃だった。 青少年問題は世界共通の課題である。
「職場適応のカギ」と言う課目は前にもあった。 今度はレベル2の方で、十二週間に渡っての授業である。 レベル1では科学とか数学、電気の基礎ばかりを習った。 今度は何を学ぶのか分らず、プログラムには、その担当教官名も書かれていなかった。 教室で他課目の自習、又図書館へ行って時間潰しをし、三週目に入ってやっと教官が決定した。
ジャックとメルの二人が担当することになった。 ジャックは新任で、メルはずっと古くからいる。 彼は主に仕事を持った業者向けに高度な電気技術を教えていた。
これは電気科と電子科クラスの合同授業で、電子科のクラスメイツは五人、年増連中ばかりとなっていた。 電気科クラスからの出席は私一人、あとの三人は出て来なかった。
これは250時間もあるのにテキストがなく、テーマもなかった。 教官も困って、コンピューターの設備機器についての解説とか、モーターの分解や組立等、なんでも学習に取り入れた。 週に一回、タスクを与え、そのレポートの提出を義務づけたが、いつも図書館で調べられ、それ程、難題ではなかった。 電気科クラスの若者三人は、誰からか情報を得て、レポートの締切り日には必ずやって来て提出をしていた。
マークは、遅刻しながらも出席はしていた。 ところがテストの日になると、風邪を引く、熱を出してはテストを受けない。 それで再テストの数がどんどん増えていった。
彼が好きだった、バーバラは、このオフィスを辞めパースヘ行ってしまった。 身内に不幸があって、母親と一緒に住むことになったそうだ。
[イレズミ]
電子科のクラスにニックと言う、四十才になる研修生がいて、奥さんと二人の女の子がいる。 落着いた物腰なので、年よりも老けて見え、今までかなり苦労をしてきたようだ。 彼は肩と背中、腕に掛けて大きなイレズミをしていた。
この国ではイレズミはファッションの一部として日本ほど拘らない。 でも中に嫌う人もいて、「意気がっているとか、威圧の為とか、とにかく教育の低い人達がするもの」と思っている。 物静かな彼の性格を見て聞いてみた。 イレズミを入れたのは、十六才だったそうだ。 「それなら未成年で違法ではないのか?」「そうだったかも知れない」と、何の拘りもせず答える。 随分日本の社会観念とは違う、拘っているのは、私だけかも知れない。
私がこの国へ永住した頃、シドニ−市内とか近郊の町でイレズミ師のカンバンを度々見掛けた。 オーストラリア人の友人は、車を運転しながら、「あれは日本人がやっている」と教えてくれた。 でも何故、彼がそれを知っているのか分らなかった。
日本人のイレズミ師が入れた場合、彫りが深いので、なかなか消えないそうだ。 そういえば、酒場で腕にイレズミをした、いかつい人達を良く見掛ける。イレズミがボケ、アザのようになっていた。 そうなると、ファッションや威圧でなく、滑稽である。
ニックに「なぜそのイレズミをしたのか?」との質問だけは出来なかった。 彼はファッションからでなく、なにかもっと深い事情がありそうだったからである。
以前、メルボルンで電子機器関係の会社に勤めていたが、この町へ移り仕事を転々と変え、今は週末だけガーデン用品の店で働いている。 将来、電子機器関係の自営をしようと、このコースを受講したが、複雑な規制のあることを知って興味が薄れてきたそうだ。 将来ガーデン用品店が拡張になり、その店でずっと働くつもりだという。
奥さんは小学校の先生になる為、現在総合大学へ通学している。 彼女は子供から手が離れ、新しい職場への準備中であった。 オーストラリアでは、年齢に拘わらず、このようなことが簡単に出来る環境となっている。
テーマ:オーストラリア
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